アスリート

ボルト、ガトリンに先行した男、多田修平の進化を見る【世界陸上ロンドン銅メダリスト】

 

今年、一気に日本のトップ選手の一員となった関西学院大学の多田修平選手。

追い風参考ながら国内初の9秒台を記録し、その勢いのまま日本選手権2位は2位、

世界陸上ロンドンでは100mで準決勝に進出、4×100mリレーで銅メダルを獲得しました。

そんな多田選手の高校時代からの進化を見てみたいと思います。

 

高校時代は目立った選手ではなかった

2014年IH100m決勝の映像です。多田選手は8レーン。結果は10.78 -2.0で6位。

この頃はスタートから一気に飛び出すことはありませんが、周りの選手よりやや頭を低めにしてスタートしていますね。

しかし、体が起き上がるのが今よりかなり速いです。

テイクオーバーゾーンの出口を少し過ぎた辺りで前を見ています。

加速区間が短く、後半は苦しくなっていますね。

 

大学1年生の時に自己ベストを大幅に更新!

2015年に自己ベストを出した近畿選手権の映像です。

5レーン、10.27 +1.2で1位です。

2014年の自己ベストは10.50でした。

上体を起こし始める二次加速が上手くなり、中盤から伸びる走りになっています。

加えてピッチが高まっていますね。

しかし、この転倒時に左膝の後十字靭帯を負傷してしまいます。

 

安定感の増した大学2年目

2016年6月8日のツイートから。

持ち前の高いピッチを生かして、転ぶ寸前まで体を倒してスタートしています。

Setの時点で肩が手の位置より若干前に出ており、重心を前方に置いていることが伺えます。

前足の膝の角度が少し開き過ぎでしょうか。

理論値は前足が90度前後、後ろ足が115〜125度前後と言われています。

 

日本インカレで3位入賞

2016年の日本インカレ100m決勝です。

多田選手は5レーン。10.30 +1.1で3位でした。

低い姿勢で良いスタートでしたが、その後の二次加速の局面ですぐに体を起こしてしまい、少し加速区間が短くなってしまったという感じでしょうか。

その結果、ラストで法政大学の長田選手に刺されています。

 

2016年、多田選手は10秒3台、4台で複数走っており、日本インカレは3位入賞、グッと安定感が増して”強さ”が出てきました。

日本インカレの前には関西学連競技会で10.25 -0.1と自己ベストも更新しています。

 

2016年〜2017年のオフシーズンにスタートを改良

2017年1月26日のツイート。

2016年〜2017年のオフシーズンにスタートの改良に取り組んでいます。

この映像はSetの時に後ろ足が伸びすぎですね。

 

2月〜3月にアメリカで合宿を行う

多田選手は2月〜3月にアメリカで合宿を行なっています。

この合宿はOSAKA2020夢プログラムという2020年の東京五輪に向けた大阪陸協の強化策の一環です。

100mの前世界記録保持者、アサファ・パウエルと、その兄でコーチであるドノバン・パウエルの指導を受けました。

 

2017年2月14日のツイート。

Setの時の重心の位置がが後ろに寄っていますね。肩の位置が手の真上になり、普段より体が後ろにあるため、後ろ足の膝も随分曲がっています。

飛び出しの角度も浅くなっています。

多田選手は、腰が曲がっており、姿勢が低すぎるという指摘を受けたそうです。

試行錯誤している段階だったのでしょう。

 

2017年2月21日のツイート。

奥にいるのは100m前世界記録保持者のアサファ・パウエル選手ですね。

低い軌道で足が動き、地面に着くのが速いです。

多田選手もそれに負けないような動きをしていますね。

 

2017年、一気に日本のトップへ

セイコーゴールデングランプリでガトリンに先行する

多田選手が注目を浴び始めるきっかけになったレースです。

70m地点あたりまで先頭で走り、あのジャスティン・ガトリンに勝つかと思われました。

低い姿勢から高いピッチで一気に加速しています。

結果は3着、10.35 -1.2でした。

レース後にはガトリン選手も「素晴らしいスタートを決めた選手がいた」と賞賛しました。

 

学生個人選手権で追い風参考ながら9秒台、公認10秒0台を記録

多田選手の現在の自己ベストのレースです。

学生個人選手権の決勝です。10.08 +1.9で見事優勝しました。

低い姿勢からスタートし、二次加速も上体を徐々に起こすことでしっかり加速しています。

腕振りの位置が体の前で振るように変化しました。

 

日本選手権で2位入賞、世界陸上代表内定へ

雨の降る中で行われた日本選手権100m決勝。

序盤やや先行するも後半サニブラウン選手に抜かれました。

それでも10.16 +0.6で2位となり、世界陸上の代表に内定しました。

しっかりと力を発揮することができた素晴らしいレースだと思います。

 

世界陸上ロンドン100mで準決勝に進出

世界陸上ロンドンでは初出場ながら準決勝に進出。

予選 10.19 +0.3 4着、準決勝 10.26 +0.4 5着という結果でした。

予選、準決勝共にウサイン・ボルト選手と同走しました。

中盤まで先頭付近で走るも後半刺されるというレース展開。

スタートが通用するということは十分に証明されました。

もう少しパワーがつけば後半もさらに伸びるのではないでしょうか。

 


世界陸上期間中の練習での一幕。

めちゃくちゃ豪華なメンバーでのスタート練習ですね。

このメンバーの中でも先行する多田選手のスタート技術の高さが伺えます。

 

4×100mリレーでは銅メダルを獲得

4×100mリレーでは昨年のリオ五輪に続いて銅メダルを獲得しました。

多田選手は1走でしっかりと役割を果たしました。

 

個人種目も含めてイギリスは本当に強かった。地力の高さもありますが、地元開催の力も確実にあると思います。2020年の東京五輪が楽しみですね。

ボルト選手の最後のアクシデントは大変残念でした。

 

まとめ

多田選手の進化の秘訣は加速区間が長くなり最大走速度が上がったということです。

最大走速度は走タイムと相関関係があり、最大走速度が高いほど走タイムが短いことがわかっています。

昨年に比べ、スタートから一次加速、二次加速の流れが安定し、しっかりと加速することができるようになりました。

それに持ち前の高いピッチと強い脚のバネが合わさって結果に繋がったと思われます。

まだまだ細身の身体ですし、これにパワーが加わればさらなる進化が起きそうです。

2020年の東京オリンピックでの活躍に期待ですね。